Trust


榛名と組んでいたとき、オレは、あいつから人として扱われてないと思った。
バッテリーとか、チームメイトとして以前に、あいつはオレを、オレたちを、自分が野球をするための道具としてしか見てなかった。
あの鋭い目はオレを突き抜けて、もっと遥か遠い、プロのマウンドを見つめていた。
なあ、オレを見てよ。
今、お前の球捕ってんのはオレなんだよ。
何度も何度もそう思った。
痣だらけになっても、何度泣いても、意地でも捕手をやめるもんかって思った。
その思いが、オレを踏ん張らせた。
あんなヤツ大嫌いだけど、その点だけは、感謝してる。
あいつへの憎しみが、オレに野球を続けさせた。


三橋の家の庭にある九分割の的。
実物を初めて見て、オレは鳥肌が立つ思いがした。
オレの言う通りに的に吸い込まれていくボール。
左手が疼く。
握り締めて、オレは三橋の顔を見た。
気の弱い、いつでも不安げな顔。
初めて見たとき、オレは、多くは望むまいと思った。
オレの組み立てた通りの投球ができるヤツなら、多少のことは目をつぶると。
オレのほしかったのは、ただ首を振らない投手だったから。
でもそれは、相手に人格も個性も求めてなかったってことだ。
投手を、人として見てなかった。
首を振らなきゃいいって? ただオレの言う通り投げてればいい?
そんなの、ピッチングマシーンと同じじゃないか。
相手を、人として扱ってない。
オレは、オレの大嫌いな最低のあいつと、同じことをしようとしてたんだ。
そう気づいたとき、オレはものすごい自己嫌悪に陥った。
あんなヤツにはなるまいと、そう思って野球を続けていたのに。
でもオレは気づけた。
ざまあみろ――とあの男に言ってやりたい。
捕手ってなんなのか。どんな投手が、本当にいい投手なのか。
三橋と、監督と、西浦のヤツらが教えてくれた。


「ごちそうさまっした!」
「おじゃましましたー」
賑やかな声が三橋の家の庭に響く。オレたちはぞろぞろと玄関を出た。
「じゃあまたなあ」
「う、うんっ。また、明日、ね」
手を振る田島に、三橋もおどおどと振り返した。
嬉しいのか興奮しているのか、頬が赤くなっている。たぶん両方なんだろう。
家に誰かが来るのも、誕生日を祝われるのも、初めてのことなのかもしれない。
「わり、先行ってて」
「えっおい、阿部?」
花井に声をかけて、オレは門のところで引き返した。
三橋はまだ玄関のところに立ってオレらを見送っていたけれど、オレの姿を見て驚いた顔をした。
「あ、あべくん? あ、わ、わすれもの…?」
両手を意味なく動かしながら、三橋は言った。
「三橋」
「う?」
「頑張ろうな」
三橋の目が、ぱちっと大きく開いた。
「う、う。うんっ」
「試験の話じゃねェぞ。あ、もちろんそっちも頑張ってもらわねェと困るけど。じゃなくて」
「やっ野球!」
三橋は両手を拳に握り、息せき切るように言った。
「そ、わかってんな」
オレは三橋の頭をぽんと叩いた。
「何があってもオレを信じろ。お前がマウンドにいる限り、オレは、お前を裏切らねェから」
三橋は氷でも飲み込んだような変な顔をして、それから強くうなずいた。
「うん!」
「おし」
いつだって、お前の球はオレが捕る。他の誰でもない、オレが。
「あ、あ、あべくんも……」
「ん? オレ?」
「あべくんも…オ、オレのこと、信じて、くれる…?」
今度は、オレが驚く番だった。
「オ、オレ…イッショウケンメイ投げる、から! だから…阿部くんも、オレのこと…信じて……ほしい、です……」
最後は消え入るような声だったけど。
はっきり聞こえた。
オレに、自分を信じろと。
多分、それはオレがずっとほしかった言葉で。
アイツからは結局一度も言われなかった言葉だ。
そうだ。そうだよな、三橋。
どちらか一方じゃなくて、投手と捕手がお互いに信じ合う。
それが、ホントのバッテリーなんだよな。
「ああ。信じるよ」
泣き出しそうだった三橋の顔が、安心したのかぱっと明るくなる。
「オレたちは、バッテリーだからな」
オレが、オレの野球をやるんじゃない。
オレたちが、オレたちの野球で勝つんだ。

「廉〜、いつまで外にいるの〜」
おばさんの声。三橋がまたオドオドし始める。
「あ、ワリ。じゃあ帰るわ」
「う、うん。ごめん、ね…」
「じゃな、三橋。……誕生日、おめでと」
オレは三橋が涙目でありがとうと言うのを聞いてから、ゆっくり門へ向かって歩き始めた。






















メトロの誕生日を記念して、ミハベ。
アベミハに見える?気のせいだろ?
阿部ってひとりでブツブツ考えてそうだよね。
ていうか考えてたよね、あの号。恥ずかしい子!
つうかあいつら両思いすぎてほんと恥ずかしい。
そら友人に薦めたら、
「原作がホモすぎて萌えるに萌えられない」
ってメールが来るわ!!