Don't call me.



「――あずさ!」

街中で呼び止められる。
でけー声。それだけでも充分恥ずかしいのに。
声の主は見なくてもわかった。
出会ってもう二年目の夏。チームメイトでバッテリーで。
だからオレはわざとゆっくり振り返った。

そんなオレをすれ違う人たちが驚いたように振り返る。中にはあからさまに笑ってる奴もいる。
畜生、オレだってそりゃ190cm近い大男に似合う名前だとは思ってねえさ!
ええい、赤くなるな、頬。

「田島、お前な――」
駆け寄ってくる見慣れたニヤけたソバカス面をオレは睨みつけた。
「名前で呼ぶなっつっただろ!」
いい加減慣れたけど、外で呼ばれるのはやっぱり恥ずかしいんだ。
しかもコイツはわかってやってるから始末におえない。
案の定田島はにやにや笑って、
「なんで? カワイーじゃん、『あずさ』って」
と言った。

――どきっとする。

からかってるだけ。わかってる。いつもの悪フザケ。
だけど――
そうやって田島がオレのことを名前で呼ぶようになってどれくらいになるだろう。
何気ないその響きに、こんなにも心が揺れる自分に気付いたのは――?
黙り込んだオレを田島は怪訝そうな顔で見上げた。
「? 何だよ。怒ってんの? あずさー? あずさちゃーん」
「……怒ってねーよ」
ぶっきらぼうに答えた。じゃなきゃ自分がどんな表情をしてしまうかわからなかった。
くすぐったいような。
泣き出したいような。
そんな気持ち、きっと田島には一生わかんないだろう。

そう多分オレは――

オレは田島に恋をしている。






















8月に日記で書いたものに加筆・修正。
ギャー恋とか言うな!
梓ったらほんと妹の少女漫画読むのやめなさい!(脳内)
でもいつか田島が花井を名前で呼ぶ日が来るといい…
むしろ田島梓になればいいブツブツブツ…