休み時間、移動教室なんかでザワめく廊下に、一際でかい声が響き渡る。
「いや、これマジだって! 兄ちゃんが言ってたんだもん!」
どっと周りから笑い声が沸く。
「それ絶対兄貴にダマされてるって!」
「バッカでぇタジマー」
――田島。
笑い声にかき消されそうなその名前を耳ざとく聞き逃さない自分が嫌だ。
それにこうやって聞くあいつの名前は、なんだか別のヤツみたいで――
「あ。花井」
不意にダイレクトにあの声がオレを呼んだ。ぎょっとする。
動揺を悟られないようそろそろと目をやると開け放した後ろのドアから田島がこっちを見ていた。手には、生物の教科書。
「何、生物室?」
自分の声が妙に低くてびっくりする。
「おう、ビデオみたよ! すっげー眠くなるやつ」
ギャハハハとまた笑いが起こる。
田島を囲む9組の連中。何人かは見覚えがあった。
「こいつずっと寝てんだもんなァ」
「先生最後キレてたよぉ」
女の子もいる。
「うっそ、マジで!? 起こしてくれりゃーいいじゃん!」
慌てる田島の頭を、連れの一人が教科書ではたいた。
「バーカ、起こしたっつうの」
「うそ!!」
ゲラゲラと笑う田島たち。それについていけないオレ。呆然とそれを見る。
やがてチャイムの音。
田島がげっと声を上げた。
「じゃーな、花井。また後で」
「……おう」
バタバタと駆けていく。騒がしい声が遠くなる。
「何あれー」
ドアのそばの女子がくすくす笑った。
「ほら、9組の…。いつもああなんだってぇ」
くすくす。
くすくす。
女の子のしのびやかな笑い。
なんてあいつとは違うんだろう。
――じゃーな、花井。また後で。
耳の奥に田島の声が残ってる。廊下の反響みたいに。
授業が始まって、英語教師のどこか粘ついた声を聞いていても、オレのどこかにあの笑い声が響く。
なんだよこれ。
なんなんだよこれ。
あのとき、田島たちに感じた妙な疎外感はなんなんだ。
疎外感?
いや、それより何かもっと――
しっくりくる違う言葉があったような気がしてオレはこめかみに手を当てた。





















何この中途半端なブツ!
続きがあるようなないような。
あるならあるで長くなりそうな。
ていうかうちの梓はホントに乙女ですいません。
ヒロインだからさ、あの子…