いったいどういうつもりなの!? |
| 「花井」 「んあ?」 昼休み。購買で買ったアイスを中庭で食ってたときだ。 「オレさ、花井のこと好きなんだけど」 「――――え?」 ポトリ… 暑い日だった。 オレは、そのとき中庭の芝生の上でとけていったのが、六十円のバニラバーだったことを、たぶん一生忘れないだろう。 「あーあ、もったいねー」 自分の分をぱくつきながら(しかも人におごらせたやつだ)、田島はとけていく白いアイスを見下ろした。 「なっ、ななな…おま、いま――!」 「落ち着けよ、はないー」 「誰のせいだっ」 「オレ?」 「――――っっ」 他に誰がいるんだ!!! 「前も言ったじゃん」 「あ?」 「覚えてねーの?」 田島はじっとオレを見上げてくる。 男に告られたことなんかねぇよっ! そう言ってやろうかと思ったけど、田島の発言が告白なのかどうかもよくわからないから、結局何も言わなかった。 「じゃあいいや」 アイスのバーをべろんと舐めて、田島はそれをゴミ箱に放った。 「うおっ、外した!」 田島はゴミ箱に駆け寄って、拾い上げて、捨てた。 そしてそこからオレを振り返ると、「花井は?」と言った。 「え、あ、……おお」 オレはどろどろになった白い水溜りの中から木のバーを拾い上げて、ゴミ箱に捨てた。 「なあなあ、花井は?」 田島はまだそう尋ねてくる。一体なんの事かと眉をしかめて、 「…………あ」 さっきのことかと、思い至った。 田島のこと、好きか? そりゃあ、好きか嫌いかと言われれば、好きだと答えるだろう。 チームメイトだし、人としてどうかと思うときもあるけど、プレイヤーとしてはすげえやつだし。 嫌う要素は、とりあえずない。 ――少なくとも表向きはそうやって言える。 でもこんな場面ではっきり「好き」なんて言えるかって言ったらそれはまた別問題で。 どうしてもそこには特別な意味が含まれる。 それなのに、「好き」だなんて、言えるわけないだろう! むしろなんでこいつは言えちゃうわけ!? 思考がぐるぐると渦を巻く。 じりじりと音を立てる。 ちょうどそのとき、チャイムの音がオレを救った。 「予鈴だ! 行くぞ」 オレは田島を振り返りもせず駆け出した。 一刻も早くここから立ち去りたかった。田島から、逃げたかった。 「はないー、またあとでなあ!」 そんな声が、オレを追いかけてきたとしても。 「おっきゃえり〜。ギリギリじゃーん」 水谷の緊張感のない出迎えに、今日ほどホッとしたことはない。 けど。 「花井アイス落としたろ。こっから見えたぜー」 そう言われて、思わずイスに座り損ねて新喜劇並みにコケそうになった。 「何やってんだ」 阿部が大して面白くもなさそうに言う。 「うるせっ。み、水谷…見えた…って……?」 「だから、アイス落としたとこ。ここの窓から」 水谷は指差した。確かにこの教室の窓からは中庭が見える。 「声は? 声、聞こえた?」 「はぁ?」 水谷は怪訝そうな顔で首をかしげた。 「聞こえるわけないじゃん、この距離で。…何、聞かれちゃまずいようなこと話してたの? エッチな話?」 「ち、ちげーよ!」 水谷がバカで助かった…。いや、そう思うのが普通か。 どう考えたってさっきのオレたちの会話は普通じゃない。 万一、誰かに聞かれてたら―― ありえないことじゃない。あのとき周りには本当に誰もいなかったか? オレは、血の気が一気に下がるのを感じた。 大体、好きってどういうことだよ。 オレは、英語の教科書の陰で、シャーペンの尻を噛んだ。 じりじりと、頭の中が焦げる音がする。 三橋じゃないけど、容量オーバーで煙が出そうだ。 田島はオレのことを好きだと言ったけど、なんせ<あの>田島のことだから、どういうつもりで言ったのか、よくわからない。 ウソや性質の悪いドッキリをやるようなヤツじゃない。 よく考えて口に出すという作業がスコーンと抜けてるからだ。 思いついたらそのまま言葉にする。 脳と口とが直結してるんだ。 本来使うべき神経が全部運動神経に持っていかれたのかもしれない。 だから、「好き」と言ったからには、本気でそう思ってるってことだろう。 でもそもそもあいつの言う「好き」ってどういう「好き」だよ? 野球みたいにか? チームメイトとしてか? そもそもあいつ、嫌いなヤツとかいるのか? わからない…。理解できない。 野球に関してはスゴイヤツだけど、情緒面に関しては子供と同じだ。 妹たちと、変わらないんだ。 子供の無邪気さで、「好き」なんて言葉、簡単に振りまけるんだ。 そうだ、だから違うんだ。 オレが田島に抱くその感情とは。 じりっと胸の奥で音がした。 |
タジハナって楽しいなあ。 揺らぎない田島と、 揺らぎまくりの花井と。 ホント早く結婚してほしい。 幸せになれると思うヨ!! |